読みきりマンガ「おりがみ」新井葉月(『コミックハイ!』12月号)

 「すいーとポテト@はてな」経由で今日売りのマンガ雑誌コミックハイ!』で「おりがみ」という読み切りが掲載されると知っていたので、早速チェックしてきた。

 雑誌の公式ページで扉ページの画像が見られる。
 で、かなり面白かったので、以下あらすじを追いつつ折り紙描写を見ていくことにする。ネタバレ嫌な人は読まないように。



 主人公は薬局に勤めている女性薬剤師の塩乃樹さん*1。小児科の前にある薬局なのにも関わらず、彼女は子供が嫌い。
 冬の近づくある日、絵本コーナーの上に飾って子供に持ち帰ってもらうための折り紙を折ることになった。それなら、と薬包紙でカブトムシを即興で折ってみせ、この中に粉薬を入れればと言う塩乃樹さん。当然却下される。
このカブトムシは鶴の基本形から折ったと思しき二本足のもので、ちょっと津田良夫さんのに似てるかなと思うのだが、元ネタとして合っているかは判断できず。作中では同僚から「(カブトムシに)見えない」と心の中でダメだしされていた。確かに、見立て心がないと見えなさそうな造形として描かれていた。


 同僚・山之内さんの折った「指輪」が子供たちに大好評の中、塩乃樹さんの折ったカブトムシはずっと「売れ残り」状態が続いていた。ところがある日、ひとりの子供(おーちゃん)がカブトムシが欲しいと言ってきた。母親が「そんなのでいいの?」と聞くと「だってコレ 蛹だけど カブトムシでしょ?」と返事。一同、ちゃんとカブトムシと認識されたことに唖然として驚く。ここは素晴らしい展開だ。「蛹」という見立てがなんとも説得力があるのがうまい。

 自分の折った折り紙をもらって喜ぶ顔を見て、子供のかわいさに目覚めた塩乃樹さんはもっとその子のために折り紙を折ろうと、図書館に折り紙本を、文具屋に折り紙用紙を探しに行くのだった。と、図書館のコマには「VIVAおりがみ」という本を読みながら「うーん、コレはむりかも…」とつぶやいているところが描かれているじゃないか!(この瞬間、立ち読みですませずに購入することが決定した。) さらに文具店で「これだーーっ!」と塩乃樹さんが手に取った折り紙用紙は、「超リアル 世界のクワガタ」という明らかにトーヨーのこのキットを参照した画で、思わずニヤリとしてしまった。

 夜遅くまでかかってクワガタを作った塩乃樹さんだったが、「患者をココロ待ちにしてどーするよ?」と先輩に注意されてしまった。というものの、おーちゃんが来局すると、反応が気になって様子をうかがう。しかし!おーちゃんがもらしたのは「いらない」の一言だった。他の子たちには好評だったのに‥‥。

 その後でかわされる、先輩と塩乃樹さんの会話がまた面白い。

先輩「なるほど、違いの分かる“オトコ”だったわけだ」
塩乃樹「は?」
先輩「だってホラ あれってキット使ってるワケでしょ」
先輩「切ったり貼ったりは邪道なんじゃん? 手抜きっつーか」
先輩「『おりがみ』は折らなくちゃでしょ」

 「邪道」出た!(笑) ばっさりと斬られるキット‥‥。しかし、不切バカな折り紙少年の心理の推測としてはもっともでもある。


 先輩の上のような言葉に、「もう一度 あの笑顔が見たいから…」と決心した塩乃樹さんは、なんと「VIVAおりがみ」に載っている「かぶとむし」を折り始める。図書館のシーンは伏線なのだった。正直こんな展開になると思ってなかったので驚いた。しかも、コマには展開図の一部も描かれていて、『ビバ!おりがみ』の現物を参照したのは間違いない。
 それにしても、いきなりビバのかぶとむしを折るのはさぞかし大変だろうなと思うわけだが、実際塩乃樹さんも「なんコレ どーなって…… てか『省略』!? どういうコトっ!?」などとつぶやきつつ折っている。

 感心したのは、折り上がったかぶとむしの描写で、これがまたいい感じに、“あまり上手じゃなく”折れている絵になっている。大角の枝分かれなどの細かいとこがうまくできてない様子がリアルだ。その後登場するごとに違うアングルで描かれているところから考えるに、もしかして作者は実際に折ってみたのかもしれない。
新井葉月「おりがみ」より引用
新井葉月「おりがみ」(双葉社刊『コミックハイ!』12月号202ページより引用)

前川淳「かぶとむし」『ビバ!おりがみ』より。折り手:小松)


 カブトムシを見ての「え コレ全然切ってないんだ」「すごいねー」というそんなには盛り上がってなさそうな会話も、リアリティを感じさせていい味だ。


 そして、おーちゃんが来局する。母親がかぶとむしに気づいて「おーちゃん 今日はいるよ カブトムシ!」というと、「ホント!?」とすごい食いつきようを見せるおーちゃん。
 つまり、先輩の推理はハズレで、おーちゃんは折り紙にこだわりがあったのではなくて、単にカブトムシ大好きなだけなのだった。
 この展開もなかなかうまい。本当に折り紙少年で、複雑な折り紙もらってバンザーイというのでは、それはそれで成立するけども、なんか子供らしさに欠けるし、お語としても薄っぺらい感じは否めない気がする。徹夜してまで複雑な作品を折った主人公にとっては肩透かしを食らった格好だが、これにより、「薬剤師」である自分に戻る契機が与えられていることが重要で、これが物語の着地点となっているわけだ。折り紙的には、最初のカブトムシのシーンが、「愛があれば見立てられる(見る人が見れば分かる)」という意味だったこともはっきりして、何気に深い。
 「技術よりも題材」というテーゼのようにも受け取れて、折り紙の創作をする者にとっては重いものでもある(‥‥かもしれない)。


 前回までの処方箋から考えるに、今日が最後になるであろうおーちゃんに対して「今日のお薬きちんと飲めば おーちゃん絶対元気になるもん」と約束して‥‥という感じで終わるのだけど、最後のオチとなる一言が(ここでは書かないけど)結構がっくりきた。勘のいい人は分かるでしょう。まあ、これは個人的にこの言葉に食傷しているからであって、ティーン向けのマンガとしてはこれくらいベタに落とした方がいいのかな、と思わなくもない。


 とは言え全体を見れば、ちゃんと資料にあたりつつ、不自然ではない折り紙エピソードを創り出しているのが素晴らしいと思った。折り紙者も納得の一編だと思う。

26日追記:
参考としてかぶとむしの写真を追加。

*1:ちなみに同僚の名前が、大塚さんと山之内さんだった(笑)。