一枚折り十字手裏剣をつくる

2016/04/16追記あり

『第9回折紙探偵団コンベンション折り図集』(2003年)に「表裏同等一枚折り手裏剣」という作品の折り図を投稿したことがあった。作者は「山田純+笹出晋司+小笹径一+小松英夫」という4人の連名となっているが、山田さんの一枚折り手裏剣の作品に改修案を出していったというモデルだからだ。各アイデアは、折り図と一緒に掲載されている笹出さんの記事「一枚折り手裏剣の研究」に詳しく書かれている。*1


「表裏同等一枚折り手裏剣」の展開図

展開図を折ったところ

「表裏同等一枚折り手裏剣」完成写真


以上が前置き。
一ヶ月前の3月10日に、みずすましさん(@nosiika)がこんなツイートをされていた。

これに対して、sakuさんkawachoさん、なみなみさんtaigaさんらが形状をシンプルに折り出す解答を寄せているが、もっと伝承の手裏剣の特徴を持たせた作品として折るとしたらどうなるだろう、と考えてみた。
そこでまず浮かんだのが冒頭の一枚折り手裏剣であった。ねじり折り部分を即した比率(kawachoさん、なみなみさんの解答)で折ればすぐできるんではないか、と。
実際に折ってみると、それはしかし若干の早計であった。最後の工程で差し込むフラップが根元のところでひっかかるのだ。

各部が干渉することなく、根元部分を中割り折りしつつフラップを折り返せるように調整した結果、無事に思惑のものが折れた。これを「一枚折り十字手裏剣A」とする。



「一枚折り十字手裏剣A」展開図(1枚目はフラップを差し込む前)

1枚目の展開図を折ったところ

根元を中割り折りしながらフラップを折り返す

「一枚折り十字手裏剣A」完成写真
少しいじってみると、干渉を避けるための部分構造で数個の別構造が見つかったが、どれが良いかとも言いづらい程に微妙な違いではある。



「十字手裏剣A」は元々の一枚折り手裏剣に比べると、ねじり折りの幅が広くなる分、完成形は小さくなってしまう。そこで、全体構造を22.5度傾ければ、うまいこと不要領域が消えて完成サイズが大きくなるような解を見つけられるのでは、と考えた。
展開図で事前の検討などもせず適当に折り始めたが、単純な比率ですぐにまとまった。「一枚折り十字手裏剣B」とする。



「一枚折り十字手裏剣B」展開図(1枚目はフラップを差し込む前)

1枚目の展開図を折ったところ

フラップは袋折りで形成する構造になっている

「一枚折り十字手裏剣B」完成写真

中央のねじり折り部分を直接ポケットにする必要があったため、フチの位置を変えるための折りが追加されている。
完成サイズは、「刃の先を結んだ対角線の長さ/用紙辺長」で、Aの0.54からBの0.58と少し大きくなって、もくろみは一応達成された。他にも、フラップとポケットの形状がぴったりなのは気持ちいい。マイナスポイントは、刃のフチの両サイドとも層が分かれてしまっていること。伝承手裏剣では刃の片側がシームレスになっているが、これは造形的に見て大きな特徴だと思う(刃そのものの見立てになっている)。「表裏同等一枚折り手裏剣」と「十字手裏剣A」ではこの特徴を再現できている。



伝承の手裏剣をイメージして作ってきたが、最後の差し込む工程において、「十字手裏剣A」は「他の折りを加えながら折る」必要があり、「十字手裏剣B」は「フラップが完全にはひらかない構造」になっている。今度は、伝承手裏剣のように「ひと折りで差し込める」ようにしてみたくなった。

目標となるのは、こんな形状となる(この時点で強烈なバカバカしさが漂う……)。今回は左側のものを折った。完成形における十字のアウトラインがかなり露出しているので、その折り出しを優先して折り始める。そのために、用紙中心部に鶴の基本形をはめこんだ(sakuさんの解答を表裏同等にしたものになっている)。これくらい複雑になってくると、層の上下関係やロックされてしまう箇所などがあちこちに現れてくるなど、細かな検討が必要になり、前2作に比べると手こずったがなんとか形になった。「一枚折り十字手裏剣C」とする。


「一枚折り十字手裏剣C」展開図(フラップを差し込む前)

展開図を折ったところ

「一枚折り十字手裏剣C」完成写真

やはり完成サイズは前2つより小さくなる(0.5)。そして「十字手裏剣B」と同じく、刃の両側がひらいている。何よりも「見た目に比してかなり難しい」。これは小松作品のお決まりの形容詞であるが(?)、それを凌駕するアンバランスさで伝承手裏剣の「お手軽さ」は完全に消えてしまっている。


・・・



以上3つ作ってみたが、どれも当初の目標である「伝承手裏剣らしさ」にはいまひとつ届かない結果となった。「表裏同等一枚折り手裏剣」が伝承手裏剣らしさを大きく残していることとは対照的である。完成形のデザインは、ある意味似たようなものであるのに、折り紙で作った場合にこれだけの違いが出てくるのは面白い。
このことを一般化して考えてみるならば、一見似たようなデザインでも、その構成の合理性/折りやすさ等には形の違い以上の差が現れることがある、という話になるだろう。これは「折り紙で作りやすいデザイン」がある、ということでもある。最終的に作品のどこに重点を置くのかは創作家次第とは言え、創作の際には視点を広く持つためにも念頭に置いておきたい。

……などと書いてみたものの、十字手裏剣でもっとシンプルな折り方があったらどうしよう。

追記(2016/04/16)

記事をアップした後にCタイプの折り線構成でAタイプのフラップの折り出しが出来そうだ、と思いついた。十字の刃を22.5度にすれば根元からフラップを一切の干渉無く生やすことができるはず…という直感に従って試した結果「一枚折り十字手裏剣D」ができた。


「一枚折り十字手裏剣D」展開図(1枚目はフラップを差し込む前)

1枚目の展開図を折ったところ

こういう形状をイメージしながら試行錯誤した

「一枚折り十字手裏剣D」完成写真
大きさは「十字手裏剣C」と同じ。刃の片側はシームレスになる。ポケットとなるすき間が複数あるのと、完成形の中心部が美しくならないのが欠点。展開図折りはパズル性が高く歯応えがあると思う。


「十字手裏剣D」を少し折り変えると(それぞれのフラップをかぶせ折りのようにひらく)、ちょっと変わった形状の手裏剣になった。これは「一枚折り卍手裏剣」としよう。ポケットへの差し込みが伝承手裏剣のようにスムーズに行って気持ちよい。他にも面白い形の変わり手裏剣を考えてみるのも楽しいかもしれない。

「一枚折り卍手裏剣」フラップを差し込む前

「一枚折り卍手裏剣」完成写真

*1:なおパズル的なシンプル作品の常だが、「近藤はにわ」さんが後に同様のモデルを発見されている(完全に表裏同等にしていないモデル)。可能性としては、2003年以前に誰かが折っていたことも考えられるだろう