岩倉啓祐『立体折り紙』

 cochaeのミツモリさんのエントリ。岩倉啓祐『立体折り紙』(永岡書店)が折り紙にはまるきっかけだった、とのこと。
 この本はぼくも持っています。買ったのはいつだったかな‥‥ビバの後かもしれない。『季刊をる』13号の「私にとっての名作」という企画にも名前が挙がっていたけど「カンガルー」は好きなモデルだ。硴塚孝明さんもこの本との出会いが大きかったようですね。
 この本の特筆すべき点は折り図の繊細さ・緻密さで、手描き折り図の最高峰とも言えるのではないかと思うほど丁寧に描写されている。


 以前、この本を探偵団東京友の会の例会に持っていってみたとき、「ビバ出版の直後に突然出た複雑な折り紙の本で、どういう経歴の著者なのかも分からず、謎な本という感じだった」というようなことを西川さんから聞いた覚えがある。*1
 これもまた以前、岩倉さんを検索してみたことがあるのだが、本人の筆による半生記のようなテキストを発見した。それは未来編集株式会社というところが運営していた「ATCLUB」というSNSの走りのような?メンバーズサービス・サイト(今はサービスを終了している)にあったのだが、今ではInternet Archivesでも見られない。保存しなかったので正確な記述は参照不可能だが、たしか学生時代に将棋ゲームのプログラム開発をしていたり、一時期悟りを啓いて宗教的な活動もしたりと、なかなか波乱万丈な半生を送られた方だったように記憶している。ルービックキューブの攻略本も出版したりしている(参照)。

 折り紙史的にはビバ出版の影に隠れる格好になったわけで、ある意味不運な本といえるかもしれない。ビバがなければ、あるいは出版が5年ほど前であったら、その後に与えた影響力も増したのではないだろうか。方法論としてはミツモリさんが書いているとおり座布団鶴・4鶴などで、笠原さんの『超難解マニア向け作品集』('76)と比べても格段の差はないわけだが、恐竜・昆虫という作品テーマは当時の折り紙少年にとって魅力的に映ったと思う。


 少し話がそれるけど、今のように定期的にコンプレックス作品の折り図が供給されていたりあるいはインターネットで個人が発信できたりという状況ではなかった時代の出版事情というのは想像以上に厳しいものだったと思われる*2。前川さんとEngelさんによってほぼ同時期に開発されたレプ式の設計法も、出版時期でみると6年もの差がある。おそらくは、ビバ出版のスピードが異常に速いと言うべきなのだろう。笠原さんの執筆スピードと過去の出版実績があって初めて成立しえたひとつの“奇跡”だったのかもしれない。
 このビバ前後の折り紙界の状況は、もう少し詳しく知りたい。ひとつ上の世代の人たちに是非語っていただきたいところ。

*1:『ビバ!おりがみ』は1983年2月10日、『立体折り紙』は同年8月5日初版発行

*2:とはいえコンプレックス系の作品集を一般流通に乗せることが大変なのは今でも変わらないが‥‥。