西川誠司作「シカ」

『第16回折紙探偵団コンベンション折り図集』を目にとまったものから折っている(まだそんなに折れていないけど)。今回は動物作品が充実しているようで、動物がメインテーマの自分にとってはいろいろ触発されるものがある。
なかでも西川さんの「シカ」がすごかった。まったく唸らされた。こんなにメッセージ性の高い作品は久々に見たという感覚を受けた。もっとも、メッセージというのはぼくが勝手に受け取っただけかもしれないんだけど。今回の記事は、それについて書いてみる。

ここしばらく例会に行けていないので、この作品はついては例会報告の写真(↑)で見ただけが事前情報だった。顔の鈍角のあたりから、てっきり15度作品だと思っていたので、折り図集の展開図を見て「…え!?」と思わず声が出そうになるくらいびっくりした(笑)。まさか鶴+アヤメとは。

この伝統的な基本形からあの鹿ができるとは、折り紙にちょっと慣れた人程「どうやったんだ?」と思うかもしれない。どこかで基本形を崩したり、とにかくなんらかの「ワザ」を使わないと、領域のバランスが結びつきにくいのだ。


この作品で、それを可能にしているのは、ちょっとネタバレになってしまうけど、後ろ足の処理だ。なんてことない、長過ぎるカドを、ただ折り込んでるだけ! しかし、これによって獲得したのが、折り工程のひとつづきの感覚だ。以前、「「工程から形ができていく」ような折り紙を作ってみたい」と書いたことがあるが、この作品は、まさにそんな感じだ。
しかも決して苦し紛れではなく、内部カド(前足):用紙カド(後ろ足)という紙厚のバランスの悪さに対する、効果的な解法にもなっているところが周到だ。ちなみに、一般的には「仕上げ」にあたる折りではあるこの折りだが、折り図冒頭の展開図では対応する折り線がわざわざ書き込んであるあたり、西川さんの意識的な狙いが受け取れる。
設計の精緻さを競うような潮流に対して、「構造の(幾何学的な)最適化にいったいどれほどの価値が有るの?」と問われているかのような、大胆さがある。


かと言って、この作品は単にオールドスタイルな作品ではないし、アンチ折り紙設計というようなものでもない。ツノなんかは非常にテクニカルな側面を持っている。ツノはこの作品の設計ー試謬のハイブリッド性をもっとも象徴的に体現しているパーツかもしれない。後方に伸びる3つに枝分かれしているツノに、前川風と、仕上げワザが同居している。
ツノと言えば、図34の沈め折りとかは全体の工程からすると難度が高過ぎる気もするけど、折っていて頭の中で「でもこういう工程って案外みんな好きなんじゃない?」という西川さんの声が聞こえた(…気がした)。そういう「浮いた工程」すら取り込んでしまう作品としての柔軟性というのも西川作品の特徴と言ってもいいかもしれない。懐の深さを感じる。


西川さんは、だいぶ前から、というよりキャリアの当初から、工程=折り感覚を展開図的・幾何学的整合性に優先させるような折り紙を作ってきたと言える。例えば、中学の時の創作である「カニ」だったり、一見設計的に見えるカミキリムシの最後の触角を細く折る工程だったり、「展開図折りに挑戦!」で紹介されながら、非常に工程上の感覚が意識されていた「龍」だったり。
これが最近の15度系作品では、少し構造的発想が先行し、それをなんとか工程として再度回収しようとする感じがなかなかスリリングだったりもするのだけど、それはともかくとして、本作は実に西川さんらしさを感じられる作品だった。


なお西川さんの過去の作品には、「馬」「ペガサス」といった鶴の基本形から発展させた動物作品もある。それらと比べてみると、過去作に見られる荒さ、折りの勢いが減り、代わりによりバランスのとれた「折り紙作品」が追求されてきていることが分かるのではないだろうか。