「ねずみ2」

Mouse 2
2019年12月創作
2020年の干支ということでネズミを創作した。ネズミは2003年に15度系で一度作っている。2作目にあたって、前作とは異なる切り口で作りたいと考えた。

komatsu.origami.jp
ちなみにリンク先の解説で書いている「前々から「ねずみを折るならこうしたい」と練っていたアイデア」というのも、今回は全然使っていない。当時考えていたのは「リス」と同路線のリアル寄りの造形だった。
今は、少しシンプルに寄せた「その対象の折り紙的イメージとして今まであまり作られていないようなデザイン」への興味が強い。ただし、漫画的・キャラクター的なデフォルメというよりは、リアルな印象をベースに置きつつ特徴を押さえるような方向性だ。
その点でいうと前作の「ねずみ」も大きい方向性としては変わっていない。そんな中で立てた構想は、

だった。

こんなイメージ
最も優先したのは目だ。これまで自分は動物作品で目を折り出すことには消極的なスタンスで来ていたのだけど、前作との差別化や、最近他の方が作る生物作品で目の表現が模索されている傾向があることを踏まえて、目の折り出しを構想のメインに据えた。インサイドアウトの条件は単に不慣れな部分に制約をつけてやりやすくしたいという思惑で、目的も「区分効果」つまり目のパーツを強調して認識しやすくするためだった。ネズミの実際の色の特徴を反映させるのであれば、目よりも耳や尻尾を優先してインサイドアウトする方が自然だろう。最終的にそうすることも視野に入れつつ、目のインサイドアウトを最低条件にした。
さらに条件として「目の内部に入るフチは1本まで」というのを課した。具体的には下図の2つ以外は採用しないという方針である。

これはここ数年の魚作品を試していたときにも考えていたことだが、よくある「T字のフチが入った目」で出てしまう表情のニュアンスが邪魔に感じられることがあるからだ。この辺の感じ方は人によって違う可能性があるが、個人的にはT字の線によって、漫画表現でいう「ジト目」のようなイメージ、あるいは眠たげなイメージが想起される気がする。フチの出方による印象をまとめてみると以下の図のような感じだろうか。
目に入るフチによる印象
T字型の場合の個人的な感覚としては「B>A>C>D」の順にニュートラル度が高い気がする。実際は目の外側にさらにフチが入って、その影響も加わるのでもっと複雑だ。
正方形のインサイドアウトでいうと次のようなパターンもおなじみだが、もちろんこれらも今回は採用しない。

フチの入らない目の先行作品などはあまり調べず創作にかかったが、勝田恭平さんの「シマエナガ」「うり坊」は記憶にあって、まずはそれらとかぶらないような折り出し方を試すところから始めた。

試作というかアイデア出しの断片の中から一部。
これらの「フチが全く入らない目」でちょっと行き詰まったため、フチが横に1本だけ入るパターンに進路変更した。

いくつか試した中からこのパターンを拾って、なんとかネズミの形に持っていったものが次。

しかし納得いかないところばかりだ。

  • 耳〜頭の上の隠し折りが厚いためエッジが甘くなる
  • 肝心の目の折り出しだが、紙がずれやすく余計な裏が見えてしまう
  • 体に余計な折りフチが入る
  • アゴの下のフチが口のように見えてしまう

何度か折って改修も試みたがうまく行かなかった。今回一番時間がかかったのがここだった。さすがに諦めて、なにか全く別のやり方に変えようと決心する。ここで頭に浮かんだのは、夏に作った「タピオカミルクティー」だった。
Bubble Tea origami
紙のカドからタピオカを折り出した方法をそのまま使ってみるかと思ったのだ。
早速紙をとっていじってみた。


カドが顔の下に隠れているのを引き出す必要があって、結果「T字型の目」になってしまってはいるが、上のような形を手にできた。基本アイデアとしては、ネズミ作品では定番的と言える「正方基本形の半分を顔面と耳にする構成」に目となる用の紙を付加するというものだ。
良い感触なので構造を確認して改めた次の試作が、完成版の基本構造となった。1つ前の試作に取りかかってから30分もかからないくらいで、まとまるときは自分でもよく分からないほどあっさり行ってしまうことがままある。とは言っても、これまでの検討が無ければおそらく手にすることはできなかっただろう。できてみて「そうそう、こういうのが作りたかったんだよ」となるのは、偶然性が混入する折り紙創作の面白いところだ。

一旦Twitterにアップして、その後折紙探偵団東京友の会例会でも発表したが、ずっと迷っていたのが耳の処理だった。
上の写真のとおり最初は耳の先を尖らせていて、これはネズミを正面から描いたイラストなどから漠然と持っていたイメージをさらにデフォルメしたつもりだったのだが、よくよく見なくとも実際のネズミの耳は丸い。正面などから見たときにカーブの曲がり部分で尖っているように見えるだけだ。

こういうこと
というわけでカドを削ることにしたのだが、このときどれだけ削るのか、そして耳の根元の段折りとどう整合性を取るかというところでかなり悩むことになった。最終的に選んだのは、誤差はあるが工程で目安が取りやすいものになった。

Mouse 2
作例は、折り紙用紙に自作テクスチャを印刷したいつものものだが、ちょっと面白いのは、テクスチャは同じ色で印刷したのに折り紙用紙の裏写りのせいで色味がだいぶ異なっている。


展開図。最後におなかをひろげて立体化する。このとき内部の紙がS字状にゆがむ。まだ折り図を描いていないけれど、この工程をどう説明しようかなあと考えている。

市間いおり新作動画(オリジナルソング)裏話

4月も終わらないうちに新作動画を公開することになるとは前の記事の執筆時点でまったく想定していない事態だった。我ながら何をやっているんだという感じだが、ネタを思いつくと形にしたい欲求が生まれてしまうのはしょうがない。

www.youtube.com

というわけで、今回はオリジナルソング。折り紙をテーマにした楽曲は過去に(プロのアーティストによるものが)いくつも発表されているが、折り紙愛好家の心情についてここまで歌った歌はさすがにないんじゃないかしらん。
4/1の動画と同じくボイスチェンジャー他による女声化加工によるものだ。自分で言うのもなんだけど、4/1の動画と比較しても普通に可愛らしい声になっていると思う。本当に自分で言うのもなんだけど、元が43歳のおじさんとは思えない。とりわけ、ぼくと会って話したことのある人にとってはかなり面白いだろう。

(以下例によって長々と書いていくのでよほど興味のある人だけ読んでください)


DTMは20年程度細々とした趣味としてやってきた。だいたいにおいてシンセサイザーや波形編集による音作りや音の組み合わせ自体が楽しく、フレーズをループさせて足したり引いたりしながらテクノ風の曲を作りかけて途中で放置するのが常なのだが、歌モノも10数曲くらいは作ったことがある。と言っても楽器演奏にはほとんど興味がない(中学頃までピアノを習っていたが、今は全然弾けないと思う)。
4/1の動画のBGM制作のためにGarageBandを触ってみて、前の旧い環境では使えなかった音源などもいろいろ使えるし、懸案だったDTM環境ももうこれでいいかなとなった(ただし昔のデータは遺物と化す)。そんな折り、今回歌詞の英訳で協力してもらった森末さんとのやり取りの中で昔作ったとあるカラオケ音源にボイチェンしたボーカルをつけてみる遊びをしてみたところ、しゃべるよりも歌う方がずっとボイチェン適性が高いことが判明してしまって、すぐに市間いおりのオリジナルソングという案が浮かんだのだった。いきおい作詞・作曲自体は2日でできてしまったから怖い。
ネタとしてはもっといかにもなアイドルソング的な曲調にしてみたかったけれど、自分に作れるものというとこういう80年代のテクノポップ的なものになってしまう。まあ、ある程度作ってから自分が参照したものと思っていた曲群を聞いてみたら全然違う音だったりしたから、素人の限界と言ったところか。

折り紙大好き!



新しい一枚を手にとって 折り筋をつけるわ
先は長いから Ah 焦りは禁物
感じるテンション 答えは図の中
少しずつ進んでく


難しい工程でつまずいて でも不思議な形
もっと知りたいな Ah 不思議な世界
何度もチャレンジ ヒントは次の図
少しずつ分かってく


みんなが思うほど器用じゃないの
だけど伝えたいんだ 「折り紙大好き!」


“コンプレックス”だって“大事な自分”ね
“この気持ち”はいつだって“シンプル”よ


騒がしい日常を離れて 折り図に向かうの
もうすぐ仕上げね Ah 気合が入るわ
高まるテンション ボンドで押さえて
少しずつまとまっていく


みんなが思うほど器用じゃないの
だけど伝えたいんだ 「折り紙大好き!」
みんなが思うほど器用じゃないし
想いを折りに込めるよ 「折り紙大好き!」
みんなが思うほど器用じゃないの
だけど伝えられたら 「折り紙大好き!」

作詞はわりとすらすら言葉がはまってくれた。最初にサビを考えたのだが、直後にTwitterで「器用」についての話題が盛り上がっていたのはちょっとしたシンクロニシティだった。自分で説明するのは野暮だが、歌詞で言っている器用はコミュニケーション能力的なものとのダブルミーニングである。ABメロの歌詞は折り紙マニアが折り図を見て折っていく過程をなぞる構成にした。節ごとに連想や押韻をもとに言葉をはめていくのはパズル的で、折り紙の創作感覚にも通じるところがある。「テンション」のダブルミーニングや、「何度」「ヒント」「ボンド」の押韻なんかが気に入っている。
ボイチェンがよく効く音域の都合上、ABとサビが同じ調だとまずかったので、サビ前で無理やり転調させている。そこから3番に戻すためにDメロを入れたのだが、作曲作業ではここが一番苦労したところだ。普段の曲は転調とかしないし2コード・1コードとかで延々やる感じなので、そもそもコード進行については全く疎い。うまい人が聴けばもっといい進行の仕方があるかと思う。さらに、そこからのアレンジを詰めていく作業は大変で能力不足をひしひしと感じた。折り紙の創作時とは違って、バリエーションの可能性が発散していく感覚になってしまうのがつらくなってしまう原因なんだと思う(この辺は以前書いた「自由度の高い創作が苦手」という話と同じ)。
origamiplans.hatenablog.jp
ボーカルの録音は今回もiMacの内蔵マイク。セットアップとか何にも考えないで収録できるので助かる。問題は、あまり大きい声で収録できないので、どうしてもリップノイズが入ってしまうこと。無声子音などもピッチを上げると耳障りになりがちだ。これらの目立つところはなるべく編集して抑えたけれど、完全にはなくならない。ヘッドホンなどで聞くとアラがはっきり分かってしまうだろう。
パートごとにループ再生しながら複数テイクを収録し、それを切り貼りしてベストテイクを作っている。歌い方のニュアンスにばらつきが出てしまったが再現も難しいので細かい部分は諦めた。前述のノイズ処理は、ベストテイクのWAVを一度書き出して、波形が見やすいAudacityで編集している。
タイミング修正なども少ししてはいるが、多少ピッチやテンポが揺れてた方が素人感があって好ましいのでその辺はほどほどにした。


せっかくだからMVとは言わずとも簡単なリリックビデオ的なものを作って動画で公開したいなと思い、今回はiMovieじゃなくてDaVinci Resolveというソフトを導入した。フリー版でも相当ハイクオリティな動画制作ができるようで、実際あまりに多機能すぎて、欲しい機能を探すには検索しまくるより他なかった。
動画では初の全身イラストをキービジュアルにしたが、線画から色塗りまですべてAffinity Designerでマウスで作った(描くというより作るというのがしっくりくる)。ペンタブで自分で引くより断然キレイな線になる。プリーツスカートとか手とかの細かいところは手間がかかるし、トータルで比較して時間もかかるかもしれないけど、緊張して線を引かなくて済むのが助かる。たまにしか絵を描かないので人間の顔が全く安定して描けないもんだから、バランスの調整がいつでもできる点も良い。今回は斜めの顔ということもあって延々と顔パーツをいじっていた。
全身イラストはABメロに使い、サビ用には以前のイラストにマイクを描き加え、この2枚の静止画素材をもとに動画を作った。ほとんどスライドさせてるだけだが歌詞に合わせて演出をがんばったつもり。最後のサビの繰り返しでダレるので締めにはLive2Dのアニメーションパートを使った。
悔やまれるのは、動画をアップしてから、直したはずのミスを修正しきれてなかったことに気づいた(ABメロのとき背景がずれて左側が黒くなってるところ)。ツイートしてしまった後だったので泣く泣く諦めた。DaVinci Resolveだと作業画面が黒いので気づきにくいからだけど、YouTube上でちゃんと再確認しなかった自分が悪い。

以上、楽曲・動画あわせて制作期間はだいたい2週間と言ったところ。絵や動画は3日くらいなのでほとんど音楽のアレンジに時間を使った。当然この間ほとんど折っていないが、全く折っていないわけではない(自慢にならない)。


Your Fold


いつものように紙を折るキミの手を見ていた
静かに響く紙の音 踊るような指先


カドとカドを合わせて(中割り折り)
折り筋をよくつけて(沈め折り)
フチとフチを合わせて(つまみ折り)
反対側も同じ……


いつものように紙を折るキミの顔見ていた
静かに響く紙の音 隠すような微笑

さて、こういうときは使いきれないアイデアが出てくるもので、ついもう1曲(1番しかない短い曲だが)作ってしまった。こちらはオマケ曲として SoundCloudにアップした。対照的にしっとりした曲調にして、折り紙用語をそのまま入れた歌詞にしたかった。歌詞に登場する「キミ」は彼とも友達とも折り紙キッズともとれるような曖昧な感じにしているが、発想としては折り紙キッズである。もちろん好きに解釈してもらっていいけれど。折り技法を歌うコーラスパートは、偶然子供のような声になった。これに限らずちょっとした発声の違いで、異なる結果になって面白い。基本はGarageBandのVocal Transformerプラグインでピッチ・フォルマントとも5度上げている。ボイチェンした瞬間に、自分とは切り離された素材のように感じるのは面白い感覚だ。声の表す個性というのは強力なんだなあと実感する。


SoundCloudからはカラオケ含めて3曲、DLもできる。
市間いおりオリジナルソングス by Hideo Komatsu | Free Listening on SoundCloud
全身イラストもpixivに載せた。
www.pixiv.net

市間いおり動画制作裏話

去年のエイプリルフールにTwitterで「折り紙VTuber市間いおり」というネタを出した。架空のバーチャル・ユーチューバーの動画サムネイル風のイラストだ。「市間いおり」はもちろん「一枚折り」のダジャレ。

で、このイラストを描いているときに、来年は実際に動かして動画にできたら面白いだろうなあとぼんやり考えていた。その後パソコンを新調して実現可能な環境になったので、行動に移したというわけだ。

www.youtube.com

エイプリルフールには過去にもオタク文化に絡んだネタを出してきたけど、今回はさすがにドン引きした方もいるかもしれない(ごめんなさい)。とは言え、この手の折り紙ネタ自体はいたって真面目な態度で作っている。まあ発想が明後日の方向なのは事実だけど。
以下、制作過程についてだらだらと書いていく。


使用したソフトは次の通り。
アバター作成>

  • FreeHand, Illustrator(主線作画)
  • FireAlpaca, Gimp, Gimp2(着色、PSD書き出し)
  • Live2D Cubism(アニメーション)

<ボイス素材>

<画像・字幕素材>

  • Affinity Designer

<BGM作成>

<動画編集>

市間いおりのイラストは基本的に昨年のものをそのまま使っている。内心、描き直してクオリティアップしたい気持ちもあったが、早くLive2Dを触ってみたくてぐっとこらえた。少し試してみて、目尻のデザインだけLive2Dで扱いやすい形に変えている。Live2Dのポテンシャルではもっと可動範囲を大きくできるが、顔の横方向の振り向きは難易度が高かったため、ほとんど動かさないようにした。
一般的に、VTuberとして配信をするにはLive2Dで作ったデータをFaceRigというソフトに読み込んで、ウェブカメラの顔認識でリアルタイムに動かす。問題は、FaceRigはMac版がないこと。ではどうしたかというと、実は今回の市間いおりの動きはぼく自身の動きをトラッキングしたものではなく、Live2Dのアニメーション機能を使って動かしている(見る人が見ればすぐ分かるだろう)。配信でなく動画だからこういう方法が取れた。リップシンク機能があったので、ボイス素材をまず作ってそれに合わせてアニメーションを作っていった。すべてを手付けモーションで作ったわけではなく、パラメータをランダムで動かす機能を使い、まとまった動きのパラメータを生成して切り貼りしている。表情だけはセリフに合わせて調整した。


そのボイス素材の方は、ぼく自身がしゃべったものをGarageBandのピッチ&フォルマントシフター(Vocal Transformerプラグイン)等で女性声に加工している。大概お聞き苦しいというか端的に不気味だろうとは思うが、お許し願いたい。当初はMac付属のテキスト読み上げソフトを使おうかとも思ったが、イントネーションなどの調整が大変そうなので見送り。有料の読み上げソフトはそれなりの値段がするし、さすがに一発ネタのために購入するのは気が引けた。
普段の声は低くガラガラしていて女声化に向いていないので、裏声ではないが多少高音めに発声をしている。マイクはiMacの内臓マイク。ノイズリダクションの作業を考慮し、Audacityで収録してデータを整えてからGarageBandに持ち込む手順としている。音声はもっと収録に時間をかけて行えば改善していくことは明らかだったが、まだ下流の工程がかなり控えてるのに変にこだわると完成が危ぶまれそうだったので、ある程度のところであきらめた。当たり前のことだがちゃんと活動しているVTuber/YouTuberの方々は滑舌がしっかりしてて喋り慣れている、それに引き換え……と痛感した。


もう一方のメイン素材である折り紙シミュレータの操作動画は、三谷さんがTwitterで紹介しているのを見て知った、d-origami.comを使用させていただいた。これをいじってみて、VTuberがバーチャルな折り紙をしているところってネタになるな、と思いついたのが今回の動画制作のきっかけだった。
このシミュレータは中割り折りに対応しているのだが、ピュアランドの方が無難だろうと思い、最初は「おすもうさん」を折るつもりだった。ところがこの作品は一旦折ったところをひらく作業が複数あるのと、紙の重なりが多いところがあって、これがシミュレータの誤作動を引き起こすようできれいに折り上げるのが難しいことが分かった。そこで「ピュアランド・ウィザード」に変更したのだが、こちらの方が折り数が多いにも関わらず、ちゃんと完成させることができたのは興味深い。ただし、シミュレータ独特の癖に対応するために、以前発表した折り図とはかなり工程を変えなくてはいけなかった。動画でも触れているとおり、この工程だとかなりずれやすい。最初の折り筋付けで上側にも22.5度の折り筋をつければ少し改善されるが、そこまでするとシミュレータで解説する意味が薄れてしまうような気がして、迷った末に対角線2本の折り筋のみにとどめた。一発ネタだし、チュートリアルとしての完成度は求めないつもりで作り始めたのだけど、記号や補足やらを足していると「やっぱりちゃんと折れる方がいいよなあ」と思えてきてしまう。この辺も少し心残りだ。


シミュレータを操作しているところを画面録画機能で撮影したものを、iMovieでボイス素材と編集し、全体の構成を決める。そのタイミング調整された音声だけを書き出してLive2Dで市間いおりのアニメーションを作成しブルーバック背景で書き出す(フリー版のLive2Dは透過背景の書き出しができないため)。そして折り方説明時に使う記号や字幕・背景の画像、BGM等と合わせて編集して、完成となる。ただしiMovieは動画と画像は合わせて2つの素材しか合成できないので、一旦シミュレーション動画と画像類を合成して、書き出してから再びアニメーションと合成するという手間が必要だった。
BGMも今回用にGarageBandで作った。昔に作った曲を元に打ち込み直しただけだが、自分の曲は基本的に暗くてリバーブやディレイをがしがし使う感じでBGMらしさに欠けるので、GarageBandのプリセット音源で多少チープな感じにしたかったのだった。BGMはフリー素材のものを使っても良かったから、これは完全に自己満足のため(この動画制作自体が自己満足ともいう)。


このような動画制作は初めてのことで、いろいろ調べつつの作業だった。役立つ情報を公開してくださっている方々に感謝したい。出来に関しては当然素人の域としても、ひととおり構想通りに進めることができ、無事にネタを成就できたのでよかった。市間いおりのキャラクターを使ったネタはまた思いついたらなんか作るかもしれないが、とりあえずは通常の折り紙活動に戻ることにする。

さて、この動画をちまちまと進めている間に、あやせましたさんがTwitterで気になるツイートをしていて、もしやと思ってDMで尋ねてみたところ予感的中で、彼も折り紙VTuberの計画を練っていたのだった。もっとも、ましたさんと僕とではコンセプトからして違うので、お互いに情報交換して安心したのだった。
ましたさんのチャンネルはこちら。受験で本格的始動は先になるとのことだが、期待したい。
www.youtube.com

「折り線トポロジー」とは

前2つの記事で使っている「折り線トポロジー」なる用語は、例によってぼくが勝手に言っているだけなので使用には注意してもらいたいが、もう少ししっかりと、言わんとしている意味を説明しておこうと思う。


ここで言う「折り線トポロジー」とは、「ある作品を示した、山谷の区別のある展開図から、頂点の位置情報を捨象したもの(基本的には、平坦条件を満たした上で)」である。基本的には、ある折り紙作品に対応して存在する。

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なるべく頂点位置がぐちゃぐちゃになるようにしたもの
拙作「カエル」でやると、こんな感じになる。とは言え、図で表した時点で1つの固定された展開図になってしまうので、正しい概念としては図示はできない。頂点位置には無限の解があるので、それらをまとめて「ぐにゃぐにゃと動く展開図」のようなイメージになる。


トポロジーという概念は広くて、例えば神谷さんが今日の一言のコーナーで「インサイドアウト(技法)はトポロジー」と言っているのは、用紙フチに着目してその変形が模様を形作るというところを言っているのだろう。(最近MT777さんが関係するツイートを書かれていた
対して、ぼくの言っているのは、展開図を「路線図」のように捉えたもの、と言えば一番分かりやすいと思う(路線図はトポロジーの例としてよく挙げられる)。折り紙の数学でも、似たような概念が「折り線グラフ」などの名前で研究されているようだが、トポロジーとしたのは、グラフという言葉よりも、ぐにゃぐにゃと変形する感じがあるかなと思ったからだ。
数学用語を使いつつ、この概念は実のところ数学的には扱いづらいのではないかと思っている。というのは、記事で紹介した変形の実例でもやっているが、「頂点数・折り線の数(頂点の価数)を増減すること」が含まれているところだ。

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作品の同一性が認められれば、こういう変化もあり、にしたい
これを認めると理屈としてはどんな展開図も1つの折り線トポロジーから生成できてしまう(多分)。そこで制限として「ある作品を示した」というのが入っているわけだが、「作品(見立て)の同一性」というのを数学的に定義するのは難しいだろう(多分)。

さきほどのカエルの展開図も、「これはカエルなのか?」と思ってしまう人もいるかもしれない。作品の同一性とは一体なんなのかということは、いわゆる「アレンジ」などでも問題になったり、著作権などにも関わるが、折り紙者にとっても言い表すのはなかなか難題だ。
というわけで、概念としてはふわっとしたものなんだけど、折り線の連続的変化を折り紙作品に絡めて論じたい際に、何かしらの用語があると便利だなと思ったところから出てきた言葉だった。