連続的変化と折り線トポロジー
最近研究してるちょっと変わった一致分子たち pic.twitter.com/LPCleTIwv4
— ろいろい / Fukuroi (@kazukazuroiroi) 2019年4月16日
ところで、これを見てほしいんやけど、1枚目は22.5度と11.25度の混ざった分子なんやけど、22.5度メッシュ同士を繋げてるからバイパスって言えるんかな?
— はちけん (@hachiken_folder) 2019年4月16日
ちなみに2枚目は22.5度のみで1枚目と同じ折り畳み形になったんやけど、それもバイパス(11.25度系?)の特性なんかな? pic.twitter.com/yXlYnmDIZx
ろいろいさんの1・2枚目やはちけんさんの構造みたいなのは個人的には「折り線構造の連続的変化」と「外周部が折り畳み可能なら内部まで折り畳み可能」の合わせ技で理解している……とツイートしたところ、daidaiさんに「もう少し丁寧な説明を」とリクエストされたこともあって、ろいろいさんの例を少し詳しく書いてみた。Twitterには画像で載せたが、以下に高画質なPDF版をアップした。
drive.google.com
「折り線構造の連続的変化」の例としては、川崎さんの折り鶴変形理論や、「ぐらい折り」などもそうだ。以前このブログで紹介した「ATCのためのサンタ」のように、全体のバランスが変化するようなものもある。
こう考えると、ある折り線のネットワーク構成(トポロジー)があったときに、角度系や格子点系あるいはバイパス系に乗るようなものは一種の「特殊解」と捉えることができそうだ。実際は折り畳み可能なままにぐにゃぐにゃっと角度や長さを動かせたりするわけだ(制限はあるけれども)。
そしてもしかしたらその中に造形的に素晴らしいバランスのものがあるかもしれない。このことは、仕上げ折りをするときに「どうしてもぐらい折りじゃなきゃダメだ!」というようなケースを想像すれば理解しやすい。
特に22.5度系は神がかったバランスとは言え若干制限が強めだから、単純蛇腹が神谷パターンの発見によって格子点系に発展したように、部分的にでも11.25度系やバイパス系を取り入れて自由度を上げたスタイルを積極的に採用する人が今後増えていくような気がする。
具体例があると面白いかなと、連続的変化を技法的に使って「おんどり」を11.25度系に改造してみた。オリヒメ上で展開図を平坦条件を満たすように折り線をいじっただけで、実際に折って作ったものではない(以下の例も同様)。
この例では見ての通り造形バランスはひどいものだが、もっと良い造形があるかもしれない。もっともシンプル作品では造形的な制限が見立ての強度になってくれるので、「おんどり」の折り線トポロジーにオリジナル(22.5度系)を超えるようなバランスが存在するかは疑問だ。
「おんどり」の例は変化としては単純なものだが、もっとコンプレックスな作品でも同様の操作で造形バランスの調整を行うことは可能だと思われる。円領域分子法で作った変則角の多い展開図を22.5度系にするなどの「洗練化」技法の逆方向のようでちょっと面白い。
もう少し複雑な例として「リス」の改造もしてみた。左はオリジナル(『小松英夫作品集』版)、右が内部構造をバイパス系にして頂点数を減らしたもの。ほとんど見た目は変わらないが胸の毛が増してなかなか悪くなさそう。折ってみると、工程もほとんど変えずに折れてなかなか良い。尾の根元の上部分にちょっとフチがはみ出すのだけ惜しい。
さらにいじった例。何かしら作図上の基準が欲しいので11.25度の変形から手をつけているが、バイパス的に繋げていくうちに混沌としてきてなんだかよく分からなくなってくる。
ここまでの作例だと足がちょっと太い気がするので、次は外周部の折り方をこの図のように少し変化させて試してみましょう。#折紙設計の理論と応用_平成31年度版 pic.twitter.com/Fq08I4hc0n
— MT777 (@meguro77) 2019年3月7日
MT777さんの「#折紙設計の理論と応用_平成31年度版」でも実例が示されている多値的設計法というか面配置設計法に習って、リスの造形のコアを取り出すと次のようになる。
この部分に注目してうまく変形していけばいいと分かってはいるものの、なかなかコントロールするのは難しい。ソフトを使っているとは言え変形してくのは手作業だからそのせいかもしれないし、単純に自分がまだ不慣れだからかもしれない。
後は、自分にとっての折り紙造形というものが22.5度系に親しみ過ぎていて、どういじっても違和感が凄い。
というわけで今回のパターンから発想してオリジナルとは別の22.5度系の内部構造も作ってみた。尾の仕上げの内側でつぶす折りで少々厄介なことになるが、腹の部分のヒダが増えることで後ろ足の形状保持力が少しアップするようだ。ただし、折りやすい工程はすぐには見つからなさそうだった。
多値的自由角系の作風を先取りしていた作家というとやはり吉野一生さんだが、この手法で吉野作品みたいな作品が作れるかは微妙かもしれない。なぜなら、この手法では工程化不可能な展開図が大量にできてしまうことが予想され、試行錯誤で見つかるものとはちょっと違うとも思えるのだ。実際に折る試行錯誤だと、自然と折りやすい(というか「工程を伴う」)パターンにフィルタリングされるだろう。
あと、こうやって折り線トポロジーをいじっていると、確実に「用紙境界が正方形である意味は無いな」と思えてくる。主体はトポロジーであって、角度の縛りとして22.5度を選べば選択肢に正方形が入ってくるが、自由角なら自由角形が当然になってくる。
この辺も円領域分子法のころから分かっていたことだが、多値構造だとさらにタガが外れる感じだ。突き詰めていけば「カドなんて用紙境界にある原子そのもので作っちゃえばいいじゃないか」と「切り折り紙」的なものに接近していくだろう。
折り線トポロジーを所与の用紙形から生じるものとする見方と、折り線トポロジーがまずあってその変形によって用紙形が生じるとする見方は、折り紙観としてかなり違うかもしれない。同じ変則用紙でもティーバッグ折り紙は前者だし、折り鶴変形理論は後者寄りだ。
いじろうと思えばいくらでもいじれるし、どんどん「良い造形バランスとはなんだ」「22.5度ってやっぱりキレイダナー」みたいになってくるし、多値自由角系を覗いてみたらそこはなかなかに魔界のようだった。
(2019/4/16, 19, 21のツイートに加筆修正)