「チョウ」の折り工程の話

発行からもうひと月以上も経ったが、第27期の日本折紙学会会員特別配布資料「チョウ」の折り図が掲載された。長工程モノの折り図が期待されていそうななか100工程未満の作品で申し訳なかったが、同時収録の「グランドドラゴン」(ウーさん創作/はうす折り図)が超大作となった関係でちょうど良いページ数だった拙作が収録されることになったのだった。


この「チョウ」は2015年2月の創作だが、折り工程の構築で問題があってなかなか作図に取りかかれなかった作品だった。

まず1つには、胴体のために入れた細い幅領域(展開図緑の線)のせいで折り出しがむつかしくなってしまった。この幅は触角部分で22.5度の構造に吸収しているため、大きさに揺れが許されない。いろいろと基準点を取って探してみたのだが*1、どうしても翅(ピンクで塗った部分)に折り筋が入ってしまう。
そしてもう1つの問題も余計な折り筋に関するもので、先の展開図の赤い丸の場所、「かぶせ折り」状の構造をどう折るかという問題があった。通常こういうケースでの工程化としては、片側の線を延長した折り線で予め折ってしまって後で引き出したりずらしたりして、かぶせ折り構造に持っていくというものが定石的で、このチョウだと例えばこのようなものになる。*2

しかし当然この手順では余計な折り筋がついてしまい、後ろ翅に赤線のように入ってくる。

折り出し手順の折り筋と違ってこちらは22.5度系に収まっているものの、あまり好ましい折り筋に思えなかった。*3

ここに折り筋が入らないように折るには、立体的な工程とするしかない。発表した折り図でいうと36〜38の図となるわけだが、本来こういう工程はできれば避けたいところではある。作図の手間もかかるし分かり易さの面でも障害となるからだ。たまに立体工程が見所になってくれる場合もあるが、このチョウだとそれほど面白い動きとは思えない、というのも決断しにくい要因だった。
こういうとき、モデルの方を変更することで嫌な折り工程を回避するという方法もある。探してみると、かぶせ折りにしないで似た造形にはできる構造があるにはあるのだが、不要な折りフチが後ろ翅にわずかながら入ってしまう。これは、本来あるべき翅の見え方(重なり方)に対してノイズになっているように思えた。

そんな感じで、描こう描こうと思いつつなかなか手が付かなかった。いっそのこと計算して定規で測ってもらうか…とまで考えたところで、型紙を使うという方法に思い至った。ユニット作品などではたまに見かけたりするが、具象作品で使うというのは自分にとって盲点だったと言える。
型紙を使うのなら完全に折り筋が入らないことを優先して、立体図もきちんと描くという方針でまとめるべきだろう。型紙の折り出しを考えたとき、ReferenceFinderで折りやすい解が出てきたことも決め手となった。こうしてようやく折り工程の大きな方向性が見えた。


結局、最終的に選んだ折り工程は、創作時に手早く畳むために選択していたのと近いものとなった。
触角となるカドの折り出し(48〜64)だけは折り図で分かりやすく描きやすい手順を新たに考えたのだが、そのパートだけ若干ニュアンスが異なっているかもしれない(否定的に言うならば『まだるっこしく』なっている)。興味のある人は、同様に折る他の経路を考えてみてもらうと、この部分がなかなか分かり易く変化をさせにくい構造であることが分かってもらえると思う。ここでは翅のケースとは逆に、51の折り筋が完成形上で影響がないために折り図の手順が採用できている。
ただ上でも触れたように、平坦折りの連続で説明する手順はときに回りくどい感じになることもある。「サクサクと一気に畳む手順(ただし立体図が不可避)」とどちらを選択するか、これは悩ましい問題だが、通常は平坦折りの手順が見つかればそちらを選択することが多い。失われる「爽快感」については、「珍しい途中形状」等の別の面白さで代替出来れば良いのだけれど、偶然によるところが大きい…。


以上、「入ってほしくない折り筋」という要素が、チョウの折り工程を決めていく上で決定的に働いたという話だった。一般の折り手にとっては、あまり重要でないところで悩んでいるように思われるかもしれないが、自分の場合こういう判断が集まって1つの線を構成するという感覚を得ることが、折り図制作の上で重要なモチベーションになっている。

*1:若手の比率折り出しマスターtaigaさんからも一案をもらった

*2:ちなみに、日本猿の作品集版の図105のように、unsinkでかぶせ折り構造に持っていく方法もある。当然余計な折り筋がつくのでチョウでは採用できない

*3:ところで前翅に入っている水平の折り筋は問題にしないのかと思う人がいるかもしれない。放射状の向きということと、そもそも工程上でほぼ避けられない折り筋という理由から、自分の中では問題ない折り筋だと認識されているようだ。