非対称的モデルについて

これまで「サンタクロース」「ピュアランド・ウィザード」「カタツムリ」「へび」「大きな帽子のサンタ」「ATCのためのサンタ」「魔女の面」といった「非対称」の要素を持つ作品を作ってきた。ウェブサイトの作品解説でも書いたことがあるが、非対称的な要素は折り工程の面白さ(途中形の豊かさ)を実現できそうだということに気付き、近年は特に関心を持っている。
さて、折り紙作品における「非対称」というと

  • a:完成造形が非対称的
  • b:基本構造が非対称的

がまず思い浮かぶと思う。が、他に押さえておきたいタイプとして、

  • c:(基本構造は対称的だが)パーツ配分が非対称的

というのがある。というわけで、これらa〜cの組み合わせによって、非対称性のある折り紙モデルは以下の5つに分類できる。

  • A:造形も基本構造も非対称的
  • B:造形が非対称的だが基本構造もパーツ配分も対称的
  • C:造形が非対称的で基本構造が対称的かつパーツ配分が非対称的
  • D:造形も基本構造も対称的だがパーツ配分が非対称的
  • E:造形が対称的だが基本構造が非対称的

以下にそれぞれの概要と具体例となる作品を挙げていくが、a〜cの対称/非対称性の定義やその程度によって分類が揺れ動くような場合もあると思われる。ここではシビアな定義はひとまず置いておき(めんどくさいので)、なるべく明快な例を挙げていくことにするけれども、良い例となるのにも関わらずこちらが失念している作品もあるだろうことをお断りしておく。

A:造形も基本構造も非対称的

非対称的造形を折るために非対称的構造を用いる、という正攻法。

この分類グループはシンプルからコンプレックスまで作例も多いが、とりあえず4作品の例を挙げた。前川さんの「ホネガイ」は『ビバ!おりがみ』掲載作で設計的折り紙の非対称作品としては最も早い時期の作品だろう。

B:造形が非対称的だが基本構造もパーツ配分も対称的

非対称的造形ではあるものの非対称であるところが部分的な場合などに、構造を対称的にすることで全体をシンプルに構成できる。典型としては、左右で仕上げ方を変化させたり、あるいは一次的な基本形を二次的基本形へと折り進める際に左右で折りを変えたりするといった手法が挙げられる。

どちらも、一次的な基本形として折り出された長いカドを、一方はそのまま(イカロスの翼、ヨーダの杖)、他方は指へと折り込み、非対称的造形に仕上げている。

C:造形が非対称的で基本構造が対称的かつパーツ配分が非対称的

Bのように左右で異なる折り込みをするだけでは不可能な非対称性を持った対象の場合は、先ほども書いたとおりAが正攻法ではある。しかし条件が噛み合えば対称的な展開図構造からでも、対象の各パーツの割り当てを工夫することで可能になるケースがある。Aと比較してのメリットとしては、構成の明快さによって折りやすさが期待できることだろうか。

ラングさんの旧作のシオマネキは、展開図構造としては対角線対称だが、パーツを変則的に割り振ってハサミの非対称性を実現している。仮にBの方法論でやろうとすると、短いハサミも長く折り出した上で、折り込んで縮めることになるが、これは言うまでもなく効率がすこぶる悪い。
「暫」は、本来は繋がっている「刀」の部分を2つに分解して捉えることで左右対称の配置としている。仕上げの折りで2つのカドを片側に寄せれば非対称的造形のできあがり、という仕組みだ。

D:造形も基本構造も対称的だがパーツ配分が非対称的

対象の造形的特徴などによっては、パーツの配置を正方形の2つの対称軸に対して非対称的にすることで、より効率の良い展開図を得られることがある。また、効率のことを除いても「対称的な造形をあえて非対称で折り出す」というのはトリッキーな魅力を生むだろう。Dは全体の折り線構造では対称性を持つケースだ。

目黒さんのクモは例として非常に分かりやすい。円図がリンク先に載っているので見てほしい。
前川さんのフランケンシュタインは、足が用紙の対角カドから折り出されていて、前後に重なっているカドを互い違いに折って両足に仕上げている。今井さんのワタリガニも同様の考え方に基づいてハサミの配置が通常の並びとは異なる変則的なものになっている。

E:造形が対称的だが基本構造が非対称的

基本的な特徴はDと同様であるが、こちらは(Aと同様に)非対称的な折り線構造を用いたケースとなる。

龍神」は鱗部分の大胆な配置や、頭部だけ45度傾いた対称軸等、見所が多い。今井さんのカマキリは頭部と前脚のカドの並びが通常「脚—頭—脚」となるところが「脚—脚—頭」となっている。このような変則的な並びは仕上げにおいてデメリットになりがちだが,そこさえクリアすればカド配置の自由度が増す。
上3つの作品はどれもボックスプリーツ(蛇腹)だが、矩形領域を配置するという設計方法(横分子蛇腹法)からして非対称構造を取り入れやすい技法と言え、作品例は結構あるようだ。対して角度系となると見つけるのが難しくなる。各務さんの「オスカー」は展開図を一見しただけではヒレの配分がどうなっているのか読み取れないまでに変則的な配置となっている。魚類は形状の特徴から非対称的な構造・配置で折りやすい題材であるが、現時点で他に類例のない作例と思われる。同じく各務さんの「チョコクロさん」も面白いが、Eの例というよりはAの例に入るかもしれない(分類が難しい例)。

パーツにおける使用例

折り紙創作では、対象をパーツ分解しておいて、独立して扱えるような部分構造として作っていく、という考え方がある。非対称的要素においても、作品全体で捉えるよりはパーツ的な一部分だけに注目した方が理解しやすいケースがある。この辺りも厳密な分類が難しい事例と言えそうだ。
以下はDの部分構造における展開例である。

神谷さんのニワトリは、通常であれば対称軸上に並べる嘴と肉垂れを、左右の辺から折り出している。SHUNさんが「半ブリル式」と呼ぶ恐竜頭部の構成も、同様に上あごと下あごを左右から折り出す構成のようだ。
どちらの作品も、全体構造での解釈としても変わらずDの分類となるが、例えば「片足だけで立っているニワトリ(曲げた方の足は見えないので短く折り出す)」であれば、Aなどに当てはまってくることになる。だとしても、頭部だけ見ればそれはDとして解釈した方が適切だろう、という意味だ。


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最初に挙げた自作品を上記の分類で分けると、「ピュアランド・ウィザード」「大きな帽子のサンタ」「ATCのためのサンタ」「カタツムリ」がA、「サンタクロース」「魔女の面」がB、「へび」がC、となる。実は個人的にずっとやってみたいと思っているのはE(造形が対称的だが基本構造が非対称的)の作品なのだが、「部分から広げていく」という普段自分が使っている作り方だと難しい側面があってちゃんとした形で実現はしていない。アイデアだけはぽつぽつあるのだけど、そもそもあんまり実作してなかったりする……。
それでも今回の記事を書くにあたって、2002年に作った4つ足動物の基本形の習作をいじってキツネにしてみたので、現時点ではこれでお茶を濁すことにしたい。展開図のとおり後半身がBook型対称だが、前半身が「頭—前足—前足」の並びになっていて頭部は用紙カドからの折り出しになっている。




これは元々、同年(午年)の正月にキノシタゴウさんから頂いた年賀状に描かれていた「ユニコーン」に触発されて試したものだ。「ユニコーン」は対角線上に順に「頭—尾—ツノ」が配置され、左右のカド周辺から足が折り出されているのだが、普通は片側で前足・後ろ足となるところを、片側から前足2本、反対側から後ろ足2本が折り出されているという作品だった。展開図では前足・後ろ足の折り込みに差があったがほぼ対角線対称なので、Dの分類となるだろうか。
自分がこういった非対称的なモデルというものを知って関心を覚えたのは、造形に関しては北條さんの影響が大きい。構造については、1999年の第5回折紙探偵団コンベンションで川畑さんが折り紙設計についての講演をされたのだが、円領域配置の話をするときに通常の2種の対称配置のあとに「こんなのも可能です」と対称軸がちょっとだけ傾いたような円図を紹介されたのだった。そのときに、なるほど…と思った記憶がある。


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というわけで、非対称モデルについての記事だったが、造形面と構造面ではちょっと考え方も違うのでごっちゃに扱うのも問題かもしれないが、クロスする側面もあるため、分類という形でまとめてみた。対称性の特徴によってもっと詳しく分析してみたかったのだが、例を考え始めたらドツボにはまりそうになったため諦めてしまった。ざっくりとした見取り図ということでご勘弁いただきたい。
なんにせよ、まだいろいろな試みの可能性がありそうだと思っている。「変則的な並びの配置」や「折る対象の変則的なカド解釈*10」等も組み合わせると、より造形と構造の関係が見所になり、鑑賞者の驚きにも繋がるだろう。
ちなみに記事を書いている間にも、若手の大雅さんが本記事分類のEタイプの22.5度系作品を作っていて、やはり何か暗黙の共通理解があるのだろうなと感じた次第だ。もはや先を越されるかも…などと焦る時期でも無いと思うし、この記事をきっかけに他の人の新作が見られれば嬉しい。

*1:『ビバ!おりがみ』に展開図

*2:折紙探偵団マガジン』67号に折り図

*3:神谷哲史作品集』に折り図

*4:折紙探偵団マガジン』140号に展開図

*5:『Origami Sea Life』に折り図/『Sea Creatures in Origami』に再録

*6:『ビバ!おりがみ』に折り図

*7:折紙探偵団マガジン』102号に展開図

*8:折紙探偵団マガジン』145号に展開図

*9:折紙探偵団コンベンション折り図集vol.19』に折り図

*10:本来繋がっている物を分割したり、逆に本来離れている物を繋げたり