折り図における層のずらし描画による歪みの問題

genさんの以下のツイートに絡めて少し書こうと思ったら文量が増えてしまったのでブログの記事にすることにした。


形状の歪みが起こる理由としては(1)ずらし描画が図の拡大によって単純に増幅される、(2)工程内容に対応して新たなずらしを足していくうちに基準となる(正確な)形状が失われる、の2つが考えられる。(1)は、折り進めるうちに段々と図が小さくなってしまうので、見づらくならないように図を拡大していくわけだが、その際にずれの大きさも同じだけ大きくなってしまう。(2)の方は文章だとよく分からないに違いないので図で説明する。

ずらし描画では、どの層を歪ませるかという選択が生じる。上の図は最も単純な例を示した物だが、A・B・Cの図が実際の折り図として出てきた場合、ほとんどの愛好家はその差を意識することはないだろう。でも折り図制作者にとってはこれらの差は意味がある。
実際の折り図を想定するならば、Aはあまり使われない…と思う。最も目に付く表側の形状が歪んでいるからである。ほとんどの人はBで描くのではないかと思う。Cもありだがこのケースではわざわざ両方の層とも歪ませる理由は見出しにくい(載せる工程内容による側面もある)。
さて、この例では層の数が2つしかないから話は簡単だが、複雑に折り畳まれた形状になると一気に描画のバリエーションが増加して大変になる。そうした図を描くときには、(a)全体形状の歪みがなるべく大きくならないようにする、(b)その工程において注目する部分の形状を正確な物に近づける、というのが基本的な考え方になるだろう。ただ厄介なことに(b)の「工程において着目する部分」というのが工程毎にころころと変わる場合があって、そうすると「前の図を複製して、部分的に描き直す」というデジタル作画の作業工程とあいまって、あっと言う間に「基準となるべき正確な形状」を見失ってしまう。歪んだ形状を基にずらして更に歪む…ということが起こるわけだ。これが(2)の問題である。
先の例のCのように、実際は描かれていなくとも基準とすべき形状が念頭にあった上で作図されているのであれば問題はないので、よって対策としては(a)の「全体形状を意識する」ことが有効となる。「ぱっと見」の印象が実物とかけ離れたものになっていないか、目立つ部分の角度が本来のものから外れすぎていないか、こういう部分に注意しつつ描くことで、大きな歪みを抑えることができるだろう。
genさんが書いているように、時々1から描き直すことで歪みをリセットするのもとても有効だ。これは(2)だけでなく(1)の「ずれの増幅」についても対策となる。


マチュアの作家にとって折り図は速く描く必要は全く無い。自分の経験からは「急がば回れ」の言葉通り、妥協無く1つ1つ描き進めていくことを強くお勧めしたい。デジタル作画の「前の図を複製していく」ことは「ミスした部分や適当に描いた部分も丸ごと継承されていく」ということでもある。いくら速く描いたとしても、後になって要修正な部分が見つかれば今度は1つ1つ直していかなければならず、結果としてじっくり描いていたときよりも時間がかかったりすることがありうる。
特に、「ぐらい折り」や変則的な角度を多用した作品では、さくさく描き進めていたつもりがふと気付くと「なんでこんな変なバランスになっているのだろう…」という事態がままある。これについてはぼく自身も過去に何度も痛い目を見てきたため、実際に折ったものを目視しただけでは心もとない場合などに「ORIPAの折り畳み推定図をガイドにする」ということをやるようになった。対応する展開図を用意する手間は増えるが(個人的には計算するよりはずっと楽)安心して描き進めることができるので、ORIPA様々という感じだ。先月発表した「イルカ」の折り図でも、78の折り返し等でORIPAの推定図でフチの位置をチェックしている。