折り図の「分かり易さ」を考える

※この記事は2013年の折紙探偵団コンベンションで行った講義で配付したレジュメを基に少しだけ追記したものです。この内容については、いずれ参考図なども足してしっかりまとめたいなあと考えていますが、ひとまず蔵出ししておきます。折り図を描き始めた人の参考になれば幸い。

(アウトライン)「分かり易い」とは…

1:必要な情報が含まれているか?(何を描くか 
  ※「図」の優位性(抽象化) cf.写真折り図 ex.地図と航空写真の違い
  1-a:作品の特長を把握する 
  1-b: 工程内容の分析 
2:その情報が読み取りやすいか?(どう描くか
  2-a:線の太さ
  2-b:ずらしによる紙の重なりの表現
  2-c:形状表現と記号表現のバッティングを回避する
  2-d:図の大きさと部分拡大図
  2-e:1作品中で情報のレベルを揃える
  2-f:ネームによる情報



1-a 作品の特長を把握する

  ・折り図によって伝えたいポイントは何か? 
   ※セールスポイント:工程の面白さ、仕上げの巧みさ、構造の美しさetc.
   ※なぜ折り図を描くか、という動機・前提問題。
  ・ターゲットの想定 →説明のレベルの設定 ⇄工程の構成
   ※どんな人に折ってもらいたいか/その作品がどんな人に求められているか
   ※展開図折りというのも1つの選択肢(折り手をあえて制限する) 

1-b 工程内容の分析

   ・折り技法の理解と適用
    ※紙の動きを折りの内容に変換し、折り技法へと分解する。
    ※技法には一定の幅があり、重なることもあることに注意。ex.中割り折り・sink・引き寄せ折り
    ※より伝わりやすい説明の仕方として折り技法を援用する、という意識を持つ
   ・盛り込むべき情報の整理
    ※必要な情報の吟味。誤解を招くようなノイズ的情報を避ける。
    ※折り手が確認したい、疑問に思うポイントはどこか? ex.ぐらい折り、層の何枚目をひらくか 
   ⇄工程の構成


2-a 線の太さ ※見やすさを左右するファクター

   ・標準的な太さ
    ※外形線0.2〜0.25mmくらい?
    ※小松の設定:0.08/0.23/0.28mm
   ・外形線と山谷・矢印線の太さの違い
    ※NOAは外形線の方が太い/JOASは外形線の方を細く描く人が多い。太い線の方が目立つので、それぞれメリットが異なってくる。ざっくり言うとNOA式は形状重視、JOAS式は折り内容重視ということ。
    ※山谷線は、線端設定を「バット線端」にすることで外形線との差を見やすくできる(デジタル作画の利点の1つ)
   ・see also:2-b、2-c、2-d

2-b ずらしによる紙の重なりの表現

   ・ずらしの向き(視点) see also:2-c
    ※折り内容にマッチした向きを選択する。
    ※複数視点の共存というウソ(絵である図の利点)を活用する
   ・ずらしの大きさ see also:2-d  
    ※小さ過ぎるとあまり意味が無いが、大き過ぎると本来の形状が分かりにくくなる
    ※作図を進めていくとだんだんズレが大きくなってしまうので注意
   ・紙の重なりの省略
    ※正確な描写が基本だが、複雑な作品では重なりを省略する必要が出てくる。

2-c 形状表現と記号表現のバッティングを回避する

   ・折り図=折った後の形+これから折る内容 see also:1-b
    ※折り図はこれが圧縮されている
    ※同じ場所を折り込んでいく場合など、次の折り内容(を示す記号類)が前工程の結果を隠して見えづらくしてしまうときがある(バッティング) 
    ※工程の順番を入れ替えることで対処可能なこともある
   ・捨てゴマ図(バッティングの回避方法の1つ)
    ※捨てゴマとは、漫画で状況描写のためだけに使われる風景だけのコマのこと。ここでは、形状表現のみの図のことを意味する。
    ※難解な工程やぐらい折りの後など、結果の形状をよく見せたい場合などに使う。濫用は紙面の浪費になるので注意。
    ※拡大・縮小・裏返し・向き変え時などを積極的に捨てゴマ図として利用する

2-d 図の大きさと部分拡大図

   ・視認性の確保 see also:2-a
    ※折り込んでいくとどんどん図が小さくなって見づらい
    ※同じ図の中で、引き出し線で見せる方法もある。
   ・部分図
    ※不要な情報のカット 
    ※部分拡大図だけに限らず、図の不要な一部分をカットすることは有効(折り手の意識の誘導)。
    ※情報のコントロールだけでなく、紙面節約にもなる
    ※逆に部分図がずっと続くことの問題もある。適宜、全体形状を見せると折り手に優しい
   ・see also:2-a、2-b

2-e 1作品中で情報のレベルを揃える

   ※難しい工程が3つあったとして、その1つだけ手を抜くと、そこがボトルネックになってせっかくの折り図制作の労力が無駄になる怖れあり
   ・途中図
    ※途中図をどこまで入れればよいかという問題。たくさん入れれば良いというものでもない
   ・see also:1-a、1-b

2-f ネームによる情報

   ・図の内容の反復的情報と補足的情報
    ※反復的情報=図中で示されている記号内容を文章化したもの 
    ※補足的情報=図中で示されている記号内容以外の情報 
    ※折り手が知りたい情報だけでなく、折り手が感じる感覚について表現すると共感から安心感に繋がる。 ex.「厚くて折りにくいので注意」


ネットで読める折り図についての考察

 ※記事は4までの続き物。このエントリの2-b・2-c等と重なる内容について描かれている。