折り応え

 折り図作業を振り返りつつ。

 今回の「日本猿」の折り工程は、「折り応え」ということを念頭において構成した。これは「猫」あたりから多少意識しはじめたことだが、今回さらに推し進めているつもりだ*1。「カバ」での失敗――億劫かつ冗長な折り工程――を踏まえているが、立石さんの日記03/8/25にあった記述にも考えさせられるところがあった。立石さんの指摘は正に当時からのぼくの悩みを突くものだったと言える。


 「折り応え」というものは、折り手のスキルや経験値に大きく左右されるものでもあるため、折り図作成者にとってこれをコントロールすることはそう簡単ではない。しかも作品自体の構造によって折り工程は8割くらい決定されてしまうので、意図的にやるとすれば創作時に作品レベルから考えていく必要もある。

 作者として、やりづらいのは(立石さんの文章からも読み取れると思うが)折り手が作風に慣れてしまうことだ。折り工程に作風を出すことは、「折り応え」に個性を生じさせて、うまくいけば大きな魅力になる反面、折り紙の魅力のひとつである「意外性」がそがれてしまうことにもなりかねない。これは難しいところだ。
 西川さん、Wuさんのように多彩な手法を採用して折り手を飽きさせないようにすることは有効だろうが、すると作家の個性を出すのに苦慮することになる。トータルバランスを見極めるセンス(西川さん)や際立ったデザインセンス(Wuさん)などが必要となってくるだろうし、何より新しい技法を次々に消化する能力が必須となる。
 ぼく自身は(今のところ)そういうスタンスは取れないし、あえて取らないものでもある。なので、作風上のマンネリを認めた上で、どのように「折り応え」を演出していくかを考えている。それにはやはり折り工程の構成が課題となってくる。


 折り工程を組み立てる際に作品に折り応えを生み出す方法としては、単純ではあるが、各工程の難易度を挙げることが考えられる。

  1. precreaseを減らす
  2. 立体的な折りを使う
  3. 同時に多くの折り線をつけるような工程を入れる
  4. 典型的な折り技法に収まらないような折りを使う

 ‥‥などがあるだろう。
 1.は手っ取り早く実現できる方法だ。複数の折り線で折るステップで、すでについている折り線の数が1本少ないだけでもステップの内容はかなり変わってしまう。「折りつぶす」快感は重要で、すでに折り筋がついている箇所は「折る」とは言えず「めくる」ようなもののため、端的に物足りなさを感じさせる。
 2.と3.は説明する必要はないか。求められる指の動きをより複雑なものにするということだ。
 4.は心理的な作用という面が大きいかもしれない。ステップの理解に必要な時間を増やす効果を期待できる。

 しかし、このように難度を上げていくと、折れない人を無意味に増やしてしまう結果を招きかねないわけで、ここもまた悩みどころだ。ぱっと見て分かりにくい工程には、丁寧な作図とネームを増やすことで基本的には対応するしかないと思われる*2。上に挙げた項目はすべて作図を面倒にする要因になるので、作業面での問題としても悩ましい。(今回の日本猿も立体図の扱いに頭を使った。)


 難度とは別に、折り手に与える満足感というような意味での「折り応え」もあるだろう。これは各工程の問題ではなくて、全体の構成にかかわっている。
 ぼくは「作品を折ること」は小説を読んだり、映画を観たりするのと似たようなものだと思っている。このような考えの下では、折り進める作業にストーリー性――起承転結のような大きいダイナミズムがあることが好ましい。これを演出するのはなかなか難しいことではあるが、なるべく考えていきたい。
 例えば「カバ」におけるようなprecreasingは、導入部としては誉められたものではないだろうし(実際に批判も見受けられた)、全体の流れを断ち切るものとして「ある程度折り進めてから全部広げる」こともあまりしない方がいいかもしれない。もちろん使いようでは折り手を効果的に驚かせることができるかもしれないが、多くの折り手は「せっかく折ったのに」と落胆するのではないかと思う。

 言うまでもないことではあるが、折り上げた満足感を生むには、完成形がよいことが何より大事であり、ぼくにとってはこちらの方が課題としてはより深刻かもしれない。
 「折り応え」は最終的には主観的なものなので、作者としても最後の拠り所は自分自身の感覚しかない。作り手においても受け手においても、好みはどうしても如実に反映されてしまう。その点はしっかり踏まえた上で、いたずらに折りの難度を上げることなく、「折って面白い」「また折りたくなる」と折り手に思ってもらえるような作品/折り図を作れたらと考えている。


 とにかく「日本猿」を是非お楽しみにしていただきたい。ご期待に副えるかは分からないけれど。

*1:本当は現在書きかけ状態の「ライオン」の折り図の方が先に成果として披露できるはずだったのだが

*2:ネームについても機会を見て書いてみたいと思う