Affinity Designer 1.9 がリリース

affinity.serif.com
Affinity Designer 1.9がリリースされた。ver.1系のユーザは無料でアップデートできる。現在、新型コロナ問題に直面するデザイナーの支援をうたったキャンペーン中で半額(約3000円)になっているので、まだ持っていない人も良い機会じゃないかと思う。


1.9では数々の新機能が投入されたが、折り図制作者にとっては待望の「オブジェクトの属性による選択」が何よりうれしい。
作成した折り図データをさまざまなシーンで活用するには、シーンに対応させて色や線幅を変更することが必要となることが多い。また、折り図を描き始めたころは、自分の作図スタイルが定まっていないため、線幅等の設定を途中で変えたくなったりするものだ。
「属性による選択」はそういった際に、すでに描いた図の作図スタイルを一括で変更することを容易にしてくれる。

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「境界線の重み」は「境界線の幅」が正しい翻訳と思われる
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ただし、山折り線(一点鎖線)や谷折り線(破線)のような細かいスタイルに合致する選択は現段階では用意されていない。「作図スタイルが固まっていない」あるいは「カラー化の際に山谷で違う色にしたい」など、のちのち山谷の片方だけ一括で選べるようにしたい、という場合は、見た目では差がわからない程度に線幅を変えておくとそれが可能になる(例えば山0.32mm、谷0.3201mmのように。なお小数点以下何桁まで表示させるかの設定は「環境設定→ユーザーインターフェース」で行える)。


もう1つの目玉である「輪郭ツール」は、Illustratorの「パスのオフセット」に類する機能だ。折り図制作では、「引き出す・差し込む」等で用いる「幅の太い白抜き矢印」の作成で便利そうだ。従来ADでは「レイヤーメニュー→境界線を展開」を使って描けたが、輪郭ツールを使うと直感的に幅を増減させたり、太い幅のままで線の形状を編集したりできる。
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↑これよりも「複合オブジェクト」を使うもっと良いやり方があった。こちらの方が、やじり部分の細かい調整を省ける。下ツイートの動画を参照。


他には、⌘+マウスホイールでキャンバスの無段階回転ができるようになっている。これはイラスト制作では便利そうだが、折り図制作では不要だろうし通常のズーム(option+ホイール)とも間違いやすいので、「環境設定→ツール」からオフにしておくとよさそうだ。

「サンタWK」折り図とその解説

origamiplans.hatenablog.jp
クリスマスということで、2014年の記事で紹介した「渡辺大(daidai)さんによる折り紙サンタのデザイン案に基づいた連作」に(ご本人の承諾を得た上で)展開図を追加した。

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展開図を作りつつ改めて見てみると、いくつかは折り紙作品として十分成立してるなと思えたので、その中でも一番まとまりが良いと思われた「C-2」を折り図化して無料配布しようと思い立った。クリスマス直前のことだったので当初は省力化して手早く描いてしまおうと思って取り掛かったのだが、描き始めるとなかなか意識的に手を抜いて描くというのも難しいもので、結局はいつもの感じであれこれ検討しつつ描くことになった。共作としてクレジットは連名に、タイトルは作者頭文字をとって「サンタWK」とした。

drive.google.com
せっかく誰でも見られる形で公開したので、派生的に上のようなファイルも公開することにした。過去に行った折り図配信などでも折り図を描く際に意識していることについて語ってきたが、今回の折り図を教材として同様のことをやってみる試みだ。折り図表現でステップアップをしたいと思っている人の参考になったら幸いだ。なお最終的な表現を含む具体的な解説内容には、ぼく個人の感覚が反映されているので、必ずしも従う必要はない。「どういうところに気を使っているのか」というところを主に見てもらい、時には「いや、自分ならこうする」など自分ならではの方法を深めてもらえればと思う。当然ぼく自身が把握できていない重要なポイントもいろいろあると思うし、幅広く情報交換をしていきたい。


折ることがメインの愛好家がご覧になった場合、「こんな細かいことを考えて折り図は描かれているのか」と、もしかしたら驚かれるかもしれない。描く側としては、折り手の意識を「折る体験」の中に自然に没頭させたい、という思いがあり、それを実現しやすいのが折り図というメディアだと考えている。写真ではここまで細かい調整は難しいし、動画は折るテンポを合わせづらいし、講習では周囲からの情報が多く没頭しづらい(もちろん各形式にはこれらを埋めるだけの利点も同時にある)。
折り図が単に「折り方・折り工程」を伝えるだけではなく、そこに「折り図体験」というような独特の価値があることがもっと認識されていってほしいと願っている。もしもそのような価値がぼくの願望に過ぎないとしたら、折り図というメディアは動画や講習など他の形式にどんどんと移り変わっていくことだろう。

市間いおり新曲「さよならカラペラピス」

ひと月に2曲公開とはどういうことか。

初めて折った時のこと覚えてる
薄いのに張りがあって カラペとはまるで違った
しっかりとついた折り筋に驚いて
折り紙のために生まれたような紙だと思った
 カラピ、なんて略して呼んだりしたよね


ゴールド カッパー アズライト マラカイト
虫たちが鈍く光を放つ この手の中で
 細く尖るカドと きらめく指先
 たまにラメの方を内側にして折ったっけ
廃判になった紙はいろいろあるけれど
折り紙のために生まれたような紙だと思ってた


  さよならカラペラピス
  ぼくらが愛した紙
  さよならカラペラピス
  わたしの愛した紙


折り紙ソングとして他にテーマに出来そうなのはやっぱり「紙」だろうか、と考えたときに真っ先に浮かんだのが、去年に生産終了となったカラペラピスだった。あの独特の折り心地と美しい表面加工、特筆すべき個性を持った紙で、自作品では「カニ」と、今回のムービーでも登場させた「チョウ」を折るときはカラペラピスがデフォルトになっていた。


オケ部分はエイプリルフールの動画でBGMとして使った曲を、音色を差し替えて部分的に構成を変えただけで、そこに歌のメロディーを加えていった。先にできていたAメロに「ゴールド カッパー アズライト マラカイト」という色名の羅列がぴったりとはまったことが曲作りにおけるハイライトだった。こういう偶然が、膨大な選択肢に戸惑う自分の背中を押してくれる。いつも言っているが、折り紙創作はこの手の偶然が多いところが自分にとっての魅力だ。
ところで歌詞で「初めて折った時のこと覚えてる」とか書いているが、ぼく自身はよく覚えていない。「おおっ」と思った覚えはうっすらあるが、何の作品を折っていたのか等は記憶の彼方だ。「カラピ」の略称も自分ではあまり使わなかったな。


映像でフィーチャーした「降ってくる展開図」は、DaVinci Resolveの機能を調べている際にできそうだと分かったのでやってみた。ただしこの機能はマシン負荷が高いようで、じゃあこの機会にと思ってメモリを32GB分増設して計40GBにしてしまった。この一年半買ったままの8GBでやりくりしてて限界も感じていたから良い機会だったということにしたい。


ところで一連の市間いおりオリジナルソングは一体どういうつもりなのか、と思われているかもしれない。これに対しての答えとしては、大筋ではネタではあるのだけど、全くのおふざけでもない、というところだろうか。折り紙創作だけでなく折り紙関連のあれこれを扱うことも自分の折り紙活動の一部だと考えているので、これもその一環と言える。マガジンで記事を書いたり、ネットで情報共有したりするのと広い意味では同列だ。まあ、あとは単純にボイスチェンジが楽しいんだけど、ここはあまり深掘りするところではない(笑)。
そんなわけでもう2,3曲くらい続けたいと思っている。

Zoom+OBSによるオンライン折り紙講習:環境導入メモ

去る10月3日に行われた折紙探偵団東京友の会の第7回オンライン例会(Zoom)で講師を担当した。実施にあたって準備した事柄を記録しておく。

obsproject.com
使ったのはネット配信では標準的なソフトであるOBS Studioで、複数のソース(カメラ映像・画像・テキストその他)を自由にレイアウトして、1つの配信画面を構築できる。その最終映像を仮想カメラとして、Zoomのカメラ入力に指定してやれば良い。使い方にはそれほど難しいことはなく、ネット上に参考記事もたくさんある。
ただしMacの場合は、OBS本体に加えて仮想カメラ化プラグインをインストールして起動してやる必要があり、ちょっと敷居が高いかもしれない。

Windowsであれば、9月末にリリースされた最新バージョンでは仮想カメラ機能が標準搭載されたそうなのでその必要がなくなった。
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実際の講習で使った画面はこんな感じ。左下の顔ワイプは、講習開始の挨拶の時だけ表示して、講習の際には非表示にした。自由に配置できるのでついついいろいろ詰め込みたくなるけど、講習の場合は画面内に情報がありすぎると気を取られてしまうのではないかと感じたため。まあ、そんなことよりぼくの顔が常時映ってても嬉しくないというのが大きいが。
講習では他に2枚の画像を用意していたが、うち1枚(冒頭の比率折り出しの説明図)はうっかりしていて使うのを忘れた。もう1つは冒頭の作品解説で触れる用に旧「ねずみ」の写真。

メイン映像として手元を映すウェブカメラは、ロジクールのC920nという機種。ウェブカメラが全般的に品薄の中、候補の製品を定期的にチェックしていたところ、7月半ばにAmazon公式アウトレットに出ているところに出くわすことができて、当時の実売価格より少し安く入手できた。
合わせてサンコー「俯瞰三脚」というのも買ったのだが、結局これは講習では使用しなかった。というのも、卓上小物入れ(15cm折り紙を入れてある)の引き出し部分にウェブカメラを引っ掛けることで手軽に俯瞰撮影を実現できることがわかったからだ。
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上記の三脚は大きめで、卓上で扱うのは不可能ではないが取り回しが手軽とは言い難い。こちらは普通の三脚として作品撮影で主に使用しようと思う(以前使っていたミニ三脚が壊れて久しかった)。探偵団マガジン183号で羽鳥さんが紹介している雲台付きアーム類も良さそうだ。
ただし上記の方法でカメラをセットすると、映像の上下が逆(向こうから見た視点)になってしまうので、これをOBS上で180度回転させる必要がある。

YouTubeなどで配信するときには、音声もOBSを介して配信するわけだが、現状ZoomでOBSの音声をマイク入力に指定できなさそうだったので、音声はZoomでパソコンのマイク音声を直接拾った。そのため映像側が少し遅延するのでは?という心配があったが、どうやら致命的なズレはなかった模様。もっとも講習中ならある程度ズレていても問題ないだろうから、あまり気にする必要はないかもしれないが。

折る際には、実際の紙を見ながらではなく、OBSの画面を見ながら折った。タブレット(板タブ)を使って絵を描くのと似ていて、最初不思議な感覚があるが、普通に折れる。この方がうっかりフレームアウトを起こさないので良いと思った。

オンライン講習の経験値を着々と上げている げんさんに教えてもらったところによると、Beth Johnsonさんのオンライン講習では、今折っている工程の前の数工程分を折り図で画面に表示させて、分からないうちに工程が進んでしまった人を救済できるようにしているらしい。画面の更新を忘れないようにするのが大変そうだなというのと、はじめの方に書いた「画面上の情報が多すぎることの弊害」も気になるが、面白い取り組みだ。


以前の記事で書いたとおり、配信や動画など不特定多数に向けた講習には個人的にはあまり積極的に取り組むつもりはないのだけど、せっかく環境を用意したのだから何かしら利用はできないだろうかと考えているところで、例えば折紙創作集団スクエアが最近行なっている自作品解説のような配信をウェブカメラも使ってやってみてもいいかもしれない。
www.youtube.com